2012年3月2日金曜日

1月13日

とうとう、完全に、携帯電話がこわれた。
ひとつき以上前から、こわれかけているのをだましだまし使ってきた。
携帯電話をもつのを、もう辞めようかなと思ったりもしていた。

きょう、もう二度と、電源が入らないようになった。
電話のいのちがもえつきるまで使ったような気がして納得し、
観念してお店へむかう。

お店で、あたらしい電話について、
まずどんな手続きをして電話帳をとりこんで、とか、
いろんな面倒そうな話をきく。
ひとりで実行する時にぜったい思い出せなくなりそうな操作があったから、
しつこいとおもうぐらい店員さんにたしかめておく。

「だって、このくらい分からないひとだっているもん」とひらきなおって、
わかるまでしつこくきいておこうって思ったのだった。

そうして黒い分厚い電話をお店のひとに渡して、
あたらしい白い電話をうけとったのだった。
いままでとはぜんぜん、てのひらにうけるおおきさも、重みも、温度も、ちがう。

電話を変える手続きはだいきらい。
でも、新しい電話は、やっぱりとても便利なものだってことを、知ってしまった。
電話がかわるときって、ちょっと、自分のなかでひとつの長い季節がおわった気分になる。

1月12日

仕事をしながら、社長といろいろ話す。
社長は厄年のときに会社を設立したのだそうだ。
「わたしは、厄年っていうのは、わるいことがおこる年っていうふうにはおもってなくて、
何か越えるべきものを越える年っていう感じでとらえてて。
会社を作ったとき、厄年だっていうのは知らなかったんだけど、
でも、やっぱり、ほんとうにその年はしんどかったのね。
あとになって、いちばんしんどいときにあれだけ頑張れたっていうことがわかって、
それはすごく自信になったの」

わたしは、そういう話をきいているのがとても好きだ。
だって、ほんとうに社長はそうやって、ここまでやってきたんだもの。
目の前にあることを、ああでもない、こうでもない、こうしてみたらどうだろう?って、
いちから自分で考えて、一個ずつたしかめて。

だけどそれって、きくとやるじゃ、大違い。
仕事中のわたしは、いつも不安におののいている。
いつだってはじめてのことと答えのないことばかりで、
絶対だいじょうぶなことなんて、なにひとつないんだもの。
おののきながら、一歩ずつ、吊り橋をわたるような気持ちで、いつも、いる。
社長もこんなときがあったのかなあ、とおもいながら。

1月11日

ろくろう君夫妻から年賀状がきている。

鳥の絵と、はっぱのシール、それから、なにかとても、不思議な絵。
黒のほそい線で描かれている。
なんだろう、夢のなかの話のような、
よくわからないけどひとには言っちゃいけない、内緒話なんだな、という感じ。

ふしぎだから、ろくろう君にメッセージをおくってたずねてみた。

わたし  「あの不思議な絵がとても気になって、メッセージをおくってしまいました」
ろくろう君「じつは、ピーコにもらった年賀状に触発されて、二人で一緒に絵を描いてん。
伝わるもんなんやなあ。うれしいわ。」

なにか、黄色い温かい感じが、胸のおくのほうから、じわーっとしみでてきて、
体中をとりかこんでくる。

ろくろう君夫妻とはめったに会わない。
けれど、そんなふうにがつーんと、心と心で握手するようなことが、ごくたまに、おこる。

わたしはときどき、去年の春の展覧会をみてくれたろくろう君が、
握手しよう、と手を差し出してくれたことをおもいだす。
おもいだすとやっぱり、なにか、黄色い温かい感じが、じわーっと出てくる。

1月10日

朝、全身にオイルマッサージを施す。
これは、アーユルヴェーダの健康法。
いったん100℃くらいまで熱して、さました太白ごま油が瓶に保管してある。
それをつかう。

てのひらのくぼみにとうめいな油を受けて、両方のてのひらでこすりあわせ、
すこしずつ、
あたまのさきから、あしのゆびさきまで。
耳のあなとか、鼻のあなにもぬる。
ぬりかたにも、少し、順番やきまりがある。
ときどきまちがえたり、とばしたりする。

油をぬりおわったら、
そのまましばらく、からだをあたたかくして待つ。

ものの本では、このときにオイルが皮膚から骨にまで浸透していくのだということだ。

その後、お風呂に入る。

このマッサージをときどきおこなう。
おこなったあとは、からだのかたくつかれていたところがやわらかくなって、
つかれていたところのまわりの空気に、ぼわーんとなにかがしみだしているみたいになる。
ぼわーんとしたあと、じょじょに軽くなってくる。
はじめてこれをしたときは、ぼわーんどころか、どっすーん、といった感じになってびっくりした。

ものぐさなわたしは、これをするとき、ぜんぜんうきうきしたりはしなくって、
ちょっと億劫にさえおもいながら、ただ淡々とおこなうだけだけど、
おわるといつも、ああよかった、やってよかった、としみじみおもう、
そのくりかえしだ。